骨盤臓器脱とは?外に出れない人も…症状や治療法を詳しく解説

骨盤臓器脱に悩む女性

「骨盤臓器脱」という言葉を聞いたことがありますか。これは女性の骨盤の中にある子宮、膀胱、直腸が下がってきて膣の中に落ち込み、外に飛び出す病気です。

実は出産を経験された方の半数にはこの病気が出ていると言われています。中には、人知れず悩んでいで、外出も控えている方もいらっしゃいます。

また骨盤臓器脱で悩まれている方に対して、日本ではまだ専門外来が少ないのも課題としてあります。

「悩んでいるのに、どこに相談すればいいかわからない。そもそも恥ずかくて打ち明けられない。」といった方が多いのが現状です。

本記事では、「骨盤臓器脱」という言葉や悩まれているがいることについて話していきます。

骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱とは、骨盤内の臓器が「腟」や「肛門」から脱出してくる疾患の総称です。

子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤・直腸脱など様々なものがあります。

子宮、膀胱、直腸は靭帯や膜で支えられていて、これが出産で傷ついたり、加齢につれて弱くなったりすることで骨盤臓器脱が生じます。

昔からある病気で、この骨盤臓器脱で悩んでいる方は非常に多く、全国で数百万人はいると考えられています。

この病気はまだ広く知られていないです。また、羞恥心のために我慢している方も数多くいるのが現状です。

様子を見ていても自然に治ることはありません。

骨盤臓器脱の症状

骨盤臓器脱の症状として、次のようなものがあります。

  • 腟からまるいものが脱出する
  • ピンポン玉のようなものが触れる
  • 股の間になにかはさまった感じ
  • 下腹部が引っ張られる感じ・下がってくる感じ(下垂感)
  • 肛門から腸が大きく脱出してくる

骨盤臓器脱は、軽症の場合には腹圧がかかったときに一時的に脱出する程度ですが、重症化すると常時脱出したままとなります。

特に長時間の歩行・運動の後に悪化しやすくなります。また朝方には何ともないのに、夕方になると症状が気になってくる方が多いです。

骨盤臓器脱になりやすい人

  • 閉経後:女性ホルモンの分泌が減り、膣が弱くなります
  • 肥満:自分の体重で膣に負担がかかります
  • 便秘:強くいきむと腹圧がかかるためです
  • 子宮摘出後:子宮を支える組織がなくなっています
  • 多産:出産は膣に大きな負担がかかります
  • 喘息、花粉症:咳も腹圧がかかります
  • 職業:立ち仕事や重い荷物などを持つ仕事など

骨盤臓器脱の種類

主に、腟から脱出するものと肛門から脱出するものがあるため、それぞれ解説していきます。

腟から脱出するもの

  • 子宮脱:子宮が下垂して脱出してくる疾患
  • 膀胱瘤:膣の前の壁が弱くなり膀胱が下垂し脱出してくる疾患
  • 直腸瘤:直腸と腟の間の壁が弱くなることで、直腸が腟から脱出してくる疾患

*膣からピンポン玉のように飛び出している膣の壁であり、子宮や膀胱、直腸が直接脱出しているわけではありません。

肛門から脱出するもの

  • 直腸脱:直腸の支持が弱くなることで、直腸が肛門から脱出してくる疾患

骨盤臓器脱の治療

女医

骨盤臓器脱の治療について、子宮脱、膀胱瘤の治療を中心に解説していきます。

子宮脱、膀胱瘤の治療

治療は大きく分けて、保存的治療と手術治療があります。

保存的治療

  • リング治療(ペッサリーの使用)

ペッサリーの図
コンタクトレンズの着脱と同じように、慣れるとそれほど難しくありませんし、通院の間隔も長くでき、性生活も可能となります。

ペッサリーという器具を腟に入れ、壁を支えることによって脱出を防ぎます。ペッサリーは、ご自身でつけたり外したりできるようにすること(自己着脱)も可能です。

▼リング治療(ペッサリーの使用)の長所

  1. 手軽に挿入することができる(10秒ほどで入ります)
  2. 身体への負担が少ない
  3. 手術に変更することができる

▼リング治療(ペッサリーの使用)の短所

  1. 根本的な治療ではない
  2. 自己脱着しない場合は、定期的な受診が必要(約3ヶ月毎)
  3. ペッサリーが脱落してしまうことがある
  4. ペッサリーによる違和感を感じることがある
  5. 性行為は行えない(自己着脱の場合は可能)
  • フェミクッションの使用


下着のように着用し外から圧迫して脱出を防ぎます。

▼フェミクッションの長所

  1. 自分で装着することができる
  2. 定期的な通院が不要

▼フェミクッションの短所

  1. 根本的な治療ではない
  2. 高価(一式約2万円前後で、他に交換用物品が必要)
  3. 着脱に多少手間がかかる
  4. 尿漏れがある方には向いていない
  5. 圧迫する場所の都合上試着できない
  • 骨盤底筋訓練

骨盤底筋と言われる骨盤底の筋肉群を鍛えることで症状を軽減させることができます。

骨盤底筋訓練を効果的に行うには、骨盤底筋の動きを画面で確認しながら訓練する「バイオフィードバック療法」が有効です。

この療法で覚えた訓練を、ご自身の生活の中で繰り返し行い、骨盤底筋の機能を強化していく必要があります。症状が改善するまで数ヶ月程度かかります。

手術療法

手術方法にはいくつか方法があります。

まず、手術療法についてのメリットとデメリットを説明していきます。

▼手術療法のメリット

  1. 根本的に治すことができる治療です

▼手術療法のデメリット

  1. 入院が必要です(1週間程度)
  2. 合併症がおきることがあります
  3. 発することがあります
  • TVM手術

TVM手術のイメージ
TVM手術では、膣を切開して、下垂する臓器との間に膣壁を補強するためのメッシュと呼ばれる網目状のシートを挿入します。

▼TVM手術の長所

  1. おなかを大きく切る必要がなく、短時間でできるため、術中の体の負担が軽い
  2. 術後の痛みが軽い
  3. 子宮を摘出しなくてもいい
  4. 膣の変形が起こらない

▼TVM手術の短所

  1. 術後に性交痛が起きることがあります
  • LSC

LSCは、日本語では「腹腔鏡下仙骨腟固定術」という手術です。

腹腔鏡という手術用のカメラをお腹の中に入れて、お腹の中からメッシュで膣を引き上げ、メッシュを背骨の下の部分に固定します。

▼LSCの長所

  1. 性交痛が起きにくい
  2. メッシュをしっかりと縫合するので、メッシュがずれにくい

▼LSCの短所

  1. 手術時間が長く、術中の体の負担が大きいため、高齢者には向いていない

直腸瘤の治療

直腸瘤とは、直腸と腟の間の壁が弱くなることで、直腸が腟から脱出してくる病気です。

直腸瘤の症状として、「排便障害」の訴えと「腟がふくれてくる」という訴えが主なものとなります。重症になると、「排便時に腟を押さえないと便が出ない」とか、「腟がピンポン玉のようにふくれてくる」という訴えが起こります。

軽症の直腸瘤の場合には、排便コントロールを行うことで病気とずっとつきあっていくこともできますが、重症の直腸瘤を治すには手術が必要となります。

直腸瘤の手術には、「腟側からメッシュを入れて補強する方法(TVM手術)」と、「肛門側から弱った壁を縫い縮めて補強する方法」の二種類があり、病状に応じて術式を使い分けています。

骨盤臓器脱のまとめ

女性医師

骨盤臓器脱は治療をすれば良くなる病気です。

治療により歩きやすくなることで、体力が回復し元気になる方が大勢いらっしゃいます。

一人で悩まず、まずは婦人科外来などに相談してみてください。